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島の恵みと鶏にも優しい環境、人との交流で生まれた「島たまご」


この記事は、2020年6月取材時点での情報です


【食づくり】
堀本ファーム
堀本隆文(ほりもと たかふみ)さん
 

みかんなどの柑橘栽培で古くから知られる佐木島。この島で採れた柑橘や島ならではの自然環境を活かして、廃業していた養鶏業を復活させた人たちがいます。その中心となったのが堀本ファーム代表の堀本 隆文(ほりもと たかふみ)さん。広い敷地を自由に動き回ることができる「平飼い」で、のびのびと育った鶏たちが産む卵は「島たまご」と名付けられ、そのおいしさや栄養価の高さから評判を呼んでいます。

堀本さんは「島たまごは人との交流で生まれた卵なんです」と話します。



鷺島みかんじまプロジェクトをきっかけに家業の養鶏業を復活

島で養鶏業が始まったのは約55年前、堀本さんが中学生の時でした。堀本さんのお父さんをはじめ農家約10軒が集まって勉強会を行い、それぞれが養鶏場を立ち上げました。お父さんの養鶏場だけでも、一時は8千羽近くの鶏を飼育していましたが、高齢化により農業人口は減少し、約13年前に養鶏業を営む人はいなくなりました。

転機となったのは2018年、島の新たな魅力を発掘しようと三原観光協会の主導で行なわれた「鷺島みかんじまプロジェクト」の一つとして、「島たまごプロジェクト」がスタートしたことでした。観光協会から鶏の飼育法を教えてほしいと相談を受けた堀本さんは、島の活気につながればとプロジェクトに協力することを決意。閉鎖していた父の養鶏場を妻や友人、島外から集まったボランティアの若者たちと一緒に復活させる取り組みを始めました。

長い間使われていなかった鶏舎を再び使えるようにするのは一苦労。生い茂っていた雑木の伐採や、草刈り、ゴミの運び出しなど、膨大な作業が必要でした。それでも毎週20人前後の若いボランティアの方たちが島を訪れ、一緒になって作業を進めてくれたおかげで準備は順調に進んでいきました。

今では鶏たちがのびのびと生活できる飼育場へと変わった


作業とあわせて、どのような卵を作るのか研究を重ねました。

「よそにない鶏卵を作りたいと思い、全国ブランドの名古屋コーチンを育てることにしました。名古屋コーチンは、ブランド鶏の中でも性格がおとなしく飼いやすい反面、あまり卵を産まない品種。卵が少ない分、付加価値を高めれば、小規模でもやっていけるのではと考えました」と堀本さんは振り返ります。

飼育法や餌にもこだわりました。鶏を身動きできない狭いゲージに閉じ込め、卵を産むことだけで一生を終わらせる飼育法ではなく、広い敷地を走り回らせながら、ストレスなくのびのびと育てる「平飼い」を採用。さらに、青みかんなどの柑橘、瀬戸内海のヒジキやわかめ、さらにクローバーなどを加えた島で採れるものを活用した、独自の餌を与えることにしました。鶏たちには島の柑橘を食べて育つことから「瀬戸内柑太郎」という名前を付けました。

黄身の色を濃くする着色用の餌などを一切使用せず、島で採れたものを与える


飼育当初、卵を産まなくなった鶏を飼育場に放したところ、また卵を産むようになったというエピソードがあるほど、鶏にとって健康的で負荷のない環境をつくりました。

「2019年の10月に最初の産卵が成功し、夫婦で感動したのを今でも忘れられません。その後の成分調査でも、DHAやベータカロテンが通常の卵より倍以上も豊富と証明され、やり方は間違っていなかったと安心しました」と笑顔で話してくれました。

堀本さんたちのアイデアや取り組みは、科学的にも結果として現れた
堀本ファームでは、現在約230羽の鶏が育てられている。「島たまご」の収穫量は1日に60個から70個




「島たまご」ならではのおいしい食べ方も提案

卵が呼吸しやすいよう工夫された環境にも優しい再生紙のエコパックに詰められ、三原市内にある「道の駅 みはら神明の里」へ出荷される


堀本さんにおすすめの食べ方を聞いてみると、「卵かけごはん」とのこと。生臭さもなくうま味の強い島たまごにぴったりの食べ方なんだとか。生卵が苦手だった堀本さんの妻・紀子さんも、初めておいしく食べることができたほどです。ほかにも、さまざまな食べ方で楽しんでほしいと2人はメニューの発信にも力を入れています。

「特にゆで卵は、島に住む地域おこし協力隊員と協力して作った『八重塩』との相性が抜群。一緒に食べたら格別ですよ。また島内にあるカフェ『島時間・鷺亭』ともコラボしながらメニューの考案も進めています。例えば生卵をメレンゲのように泡立てた卵かけごはんは、色味も美しく、目でも楽しめます」。

一般に販売されている卵と比べると値段は少し高めで、販売場所も限られているため、なかなか手に入りにくい島たまごですが、2人は購入してくださった人が、もっとおいしく食べられるようにと、島たまごに合う醤油や塩などの調味料を一緒に販売することも企画しています。

手間と愛情をかけて育てられた絶品卵。見かけたらぜひ手に取ってみてほしい



佐木島での生活はこれからも

堀本さんが生まれ育った佐木島には、多い時で3,000人以上が暮らしていましたが、今は700人ほど。それでも島の魅力に惹かれた若い人たちが、少しずつ増えているそうです。そういう話を聞くのが嬉しいと堀本さん。妻の紀子さんも「養鶏場を立て直す時、ボランティアで来てくれた若い人たちが、一緒に頑張ってくれたことがとても嬉しかったです」とも話します。

親の介護もあり、島を離れることは考えなかった堀本さん。島での暮らしについて「コンビニや信号機のない佐木島ですが、気心の知れた島の人、海・山の自然に囲まれながら過ごす時間は私にとってとても大切なんです」と話してくれました。

養鶏の傍ら三原市内で夜勤のタクシー運転手として働いていますが、70歳を区切りに運転手を引退して、現在の飼育方法と環境で養鶏に専念したいと思いを巡らせます。「無理をせず、500羽ぐらいまで鶏を増やし、1日200個から300個の卵が収穫できればいいですね」と微笑む堀本さん。これからも島の自然の恵みを受け、こだわりとおいしさがぎゅっとつまった「島たまご」を届けます。




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