地域の思いが詰まった割烹旅館 別館を再生 。人と人、人と場を結んでいく
この記事は、2019年9月取材時点での情報です
【食づくり】
古民家カフェ&宿 むすび
田中裕士(たなか ひろし)さん・咲子(さきこ)さん
大阪から移住してきた、田中裕士(ひろし)さん・咲子(さきこ)さん夫妻。念願だった古民家のカフェ&ゲストハウスの運営を、かつて老舗割烹旅館 別館だった建物を改装してスタートします。
店を訪れる地元の人や、割烹旅館時代に縁のあった人などから話を聞くたび、「地域のために」という思いがますます募る日々。プライベートも楽しみながら、地域一体と連携した町のにぎわいづくりに取り組んでいます。
一目惚れの古民家物件で、周囲の協力を得ながら夢を実現
大阪で飲食店を経営していたという、裕士さんと妻の咲子さん。裕士さんは飲食店勤務の経験があり、咲子さんはダイニングバーの店長を務めていたことから、自身の店舗経営を考えたのは自然の流れだったそうです。
二人の心にはいつも「もっと自然のある場所で開放的なお店づくりがしたい」という思いがあったそう。
関西近辺でも自然のある古民家のような物件を探していましたがなかなか見つからず、そんな時、空き家バンクで三原の物件に実際に足を運んだところ、目の前の開けた海、想像以上に広く味わい深い建物、趣溢れる日本庭園に一瞬にして心奪われたと言います。
実はここ、以前は有名な割烹旅館『喜楽園(きらくえん)』の別邸として営業されていました。今では見られないような建築様式が施されていたり、庭園で四季の移ろいが感じられたりと、数々の趣向が凝らされています。
「ここにしたい!」そう強く感じた田中夫妻はすぐ店の開店や移住に向けて準備を始めました。
店づくりに関しては、創業支援を行っている『まちづくり三原』の講座に参加し、具体的な経営のノウハウや建築基準法について学びました。
「建築のことに関しては、リフォームに際し実際店に足を運んでいただき、本当に助かりました。飲食店やゲストハウスの運営において一定の建築基準があるので、知らないまま自分たちで進めていたら後でやり直すことも余儀なくされていたかもしれません」
開店してから知る建物の歴史と地域住民の思いを受けて
オープンにあたり、告知の方法でおもに活用していたのがSNS。どれほどの人が見てくれるかなと心配しながらのスタートでしたが、近隣に住む人から「開店楽しみにしています」とメッセージをもらうこともあり、とても励まされたと言います。
開店後、メッセージをくれた人が実際に来店してくれたり、昔からこの建物を知っている人や、建物自体が気になっていたという地元の人が多く訪れてくれました。
「中には割烹旅館の別邸だった当時の写真を持って見せてくれるお客様もいて。愛されていた場所だったんだなと、つくづく感じました。この建物がどうなるんか気にしとったんよと言われると、ここで営業を始めたことでまちづくりにも関われているのかなと嬉しく思いますね」
反響の大きさは、飲食店のみにとどまりません。当初観光客向けにと始めたゲストハウスでしたが、意外にも地元の利用が多いと言います。
「夏の時期にはとくに進学で実家を離れた子どもが戻るので泊まらせてほしいとか、お盆の親戚の集まりで泊まるスペースがないので利用したいとか、そういう問い合わせが多かったです。」
日々の暮らしを楽しみながら地域と一緒に魅力を創出
予想以上に温かく迎えてくれた地元の人たちの期待に応えたいと、店では開店直後以上に地域色を出した店づくりを心がけています。提供している料理は地産地消を軸に地物の有機野菜や特産のタコをはじめとする瀬戸内海で獲れる魚介類などを使用。カフェで使用する食器も近所に工房を構える『Pole Pole(ポレポレ)』の器などを使用しています。
「三原に移住してきて、人とつながることの素晴らしさや優しさをあらためて感じました。休日は近くの飲食店で食べ歩きを楽しんだり、趣味の釣りを満喫したりと、プライベートも充実しています。須波海浜公園が近く子育てもしやすいし、住みやすい町だなと実感しています」
「これから私たちのように三原へ移住してくる人たちに、地元の人と交流できる場を提供できたらなと思って。とくに子育ての情報交換をしたいママ世代の応援をできるような活動をしたいと思っています」
店名に込められた、“人と人、人と場所、人と料理を結びたい”という思い―その願い通り、須波の海を臨む築100年の古民家で素敵な縁が結ばれていくに違いありません。