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歴史ある古民家から、日本古来の暮らしを大切に


この記事は、2021年3月取材時点での情報です


【幸せづくり】
ていねいな暮らし いやしろち
只佐浩一(たださこういち)さん・貴美江(きみえ)さん

のどかな田園風景が広がる久井町泉地区にある、築200年を超える古民家。只佐浩一(たださ こういち)さん・貴美江(きみえ)さん夫妻はこの古民家を改修し、体に優しい暮らし方を提案する場所、『ていねいな暮らし いやしろち』を営んでいます。二人が考える理想の暮らし方についてお聞きしました。


「理想の暮らし」ができる古民家との出合い

三原市出身の浩一さんと岡山県津山市出身の貴美江さんが、浩一さんの故郷・三原へ帰ってきたのは2013年のこと。浩一さんの父親の病気がきっかけでした。初めは三原市八幡町で暮らしていましたが、二人の暮らし方に転機が訪れたことにより、自給自足するための畑があって、すぐに住めることを条件に物件探しがスタート。東は京都、西は広島の端までに及びました。

二人が考える理想の暮らしについてお聞きした

数十件の物件を内見しますが、なかなか望み通りの物件はありません。そんな時に出会ったのが三原市役所の空き家バンクの担当者の方が紹介してくれたこの古民家でした。

江戸時代後期から大切に住み継がれてきた建物は、築200年という歴史がありながらも、すぐに住めるきれいな状態。お寺の代わりに冠婚葬祭を行う場所として使われていたこともあり、和室には立派な仏壇が備えつけられていました。

この家にある和箪笥(わだんす)、裁縫の仕立て台、ガラス戸などは友人や知り合いから譲り受けたそうです。この古民家には、元々この家にあったもの、縁があってやって来たもの、そして二人が集めていたもの。元々あった場所は異なるのに、すべての調度品が見事に調和しているから不思議です。

譲ってもらった家具などは磨いたり、蝋を塗ったりと長く使えるよう手を入れている

“体に優しい”をテーマに、多彩な講座やイベントを開催

入り口に置かれた手書きの看板

『いやしろち』というあまり聞きなれない言葉。本来の意味は、動物が集まったり、植物が非常によく生育したりする気持ちの良い土地のことで、『弥盛地』と書くそうです。

「ここに来ると元気になれる場所に」との思いから名づけられました。移住して4年、二人が開いた『いやしろち』では、どのような活動が行われているのでしょうか。

「発酵料理、ビーガン料理、着付け、茶道、華道、書道、瞑想など、さまざまな講座やイベントを開催しています。体に優しく、自然と生き物、日本古来の事を大切にした暮らしを提案しています」。

料理関係は貴美江さんの担当。他は場所を提供する形でそれぞれの専門家が講師を務めています。なかには書道と篠笛、禅マインドフルネスと茶道、着付けと華道など、異なるジャンルを組み合わせたユニークな企画もあり、とっても人気なのだそう。

「茶道をするなら着物を着たいね、という風に、みんなで話している中から生まれた企画もあります。講師の方も参加者も人づてに紹介される事が多いですね。単に講座やイベントを行う場所ではなく、人と人が繋がる場所でありたいです」と貴美江さん。

心地よい空間と魅力的な企画に誘われ、参加者は広島市から福山市まで県内全域から集まります。


自然の大切さを次の世代にも!

薬剤師として働かれている浩一さん。自然農法で野菜を育てたり、山の管理、日々の生活の中で使うための薪を割ったりと、仕事をしながら自然と寄り添いながらの生活を送っています。また、野山にある薬草の持つ力に魅力を感じ、柿酢(柿で作るお酢)やお茶などを手作りされています。これからは薬草の効果、効能を伝えていきたい、と賛同してくれる人を募られているそうです。忙しい日々を送っているように思いますが、

「移住してから精神的に落ち着きました。元々田舎育ちなので、自然の中でのスローな生活が合っているんです。妻の料理もおいしいですし、今の生活のおかげで以前より10kg以上瘦せました。」と微笑みます。

畑仕事の他にも蕎麦打ちをするなど新たな挑戦も

貴美江さんが作る料理は、穀物や野菜、海藻など日本の伝統食をベースにした自然に則した食事法“マクロビオティック”が基本。移住する前、総合病院で看護師として食事指導をしていた時に出合い、勉強していくにつれてその魅力を知ったそうです。さらに醤油、味噌、みりん、酢、塩麹、甘酒など、ほとんどの調味料が手作り。

「野菜を摂りなさいと言いますが、もっと大切なのは毎日使う調味料だと思うんです。食べ物をおいしく食べるには調味料は不可欠。化学調味料を使わない本物に変えていけば、感覚が鈍ってしまった舌も元に戻り、素材本来の味や香りが楽しめるようになりますし何より丁寧に作った調味料を使うからこそ、作った料理が愛おしく、心がこもり、食事が大切な時間になると思うんです」

醤油と甘酒を味見させてもらいましましたが、自然の甘さと優しい味が口の中にふわ~っと広がりました。取材班一同、「ん! おいしい!」と感動。貴美江さんは食べ物だけでなく、食器洗剤や洗濯についても意識しています。

「家で使った水が、川や海に流れていくことが気になり、自然に優しくないものは使わないシンプルな生活になっていきました。自然の大切さを若い世代にも繋げていけたらうれしいですね」。

料理教室では、身近に購入できる調味料の中ではどんなものが良いか選び方も伝えている

モノや情報が溢れ、時間に追われる今の時代だからこそ、自然や日本古来の事を大切にした生活が必要なのかもしれません。浩一さんと貴美江さんが実践する『ていねいな暮らし』を、『いやしろち』で体験できそうです。