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新しい時代の暮らし方、働き方 ~IT×田舎が生み出すもの~


この記事は、2020年11月取材時点での情報です


【まちづくり】
ギークハウス広島
篠崎初光(しのざき もとひこ)

のどかな田園風景が広がる三原市北部の久井町坂井原地区は、世帯数360戸ほどの小さな山あいの地域。「ギークな人たち」×「田舎暮らし」をテーマに掲げるシェアハウス「ギークハウス広島」があります。

技術オタクが集う⁉ 「ギークハウス」とは

ギークとは『技術オタク』という意味を持つ英語の俗語。そんな人たちが集ったシェアハウスが『ギークハウス』です。

全国に数多くある『ギークハウス』だが、地域や管理者の違いによってそれぞれの個性や特徴があるそう

そして、『ギークハウス広島』の管理・運営をしているのが、静岡県三島市出身で、ITエンジニアとして東京や大阪で働いていた篠崎初光(しのざき もとひこ)さん。縁もゆかりもないこの地域で、どんなギークな活動をしているのでしょうか。

自らを『いなかぐらしすと』と称し、これからの田舎暮らしを変えていく元ITエンジニアの暮らしぶりと、たくさんのアイデアを聞いてみました。


これからは田舎が面白そうだ

築100年の古民家(背景)が『ギークハウス広島』


篠崎さんが田舎暮らしに興味を持ったのは、2013年の9月頃。ITエンジニアをしながら、「ITの必要性は田舎だからこそ強くなる」「これからは田舎が盛り上がりそうだ」という思いを持つようになり、リーマンショックをきっかけに退職。大阪で生活しながら田舎暮らしについての情報収集をし続け、2014年の5月に大阪から県をまたぎ、広島県三原市へ。移住先にと決めた三原への関心は最初からあったわけではなかったそうです。

「でも実際に住んでみると、陸・海・空(高速道路、しまなみ海道、広島空港)のアクセスが抜群な三原は、他の田舎と比べても可能性を十分に持った地域だと感じました」

篠崎さんは、2015年に「坂井原元気プラン」という地域活性化のための取り組みに参加。移住定住の促進を目的とした空き家を活用する企画をチームメンバーと共に進めていきました。そして、最終的に久井町坂井原にあった築100年の古民家を使わせてもらえることになり、2017年に、古民家を『ギークハウス広島』と命名しオープンしました。このハウスのテーマは“田舎暮らしが体験できる”という、まさに地域の特性を活かしたもの。現在1名が住民として、鍵住民として2名が利用しています。

※鍵住民・・・ギークハウス広島での制度。「ギークハウス広島」の鍵を渡し、いつでも部屋の利用が可能となる。


これまでも利用者や地域の方たち、友人らと一緒に、2018年(平成30年)の豪雨災害で被害を受けた井戸を掘る作業や、敷地内にある『ぎーひろ農園』での農業体験、地域の体育館を使ったドローン飛行会などを開催し、『ギークハウス広島』を通して、たくさんの方たちに活動の場を提供しています。


新しい時代の百姓として


ITと田舎暮らし、農業などを組み合わせて生活すること。篠崎さんは、その模索を続けるのが楽しいと話します



「農業体験もドローン飛行会も地域の人に協力してもらい、チームとなって活動をしています。田舎は人とのつながりが濃く、誰かしら経験のある人やいろんな能力を持つ人が見つかります」

『ぎーひろ農園』では、地元農家の方に農園長になってもらい、作り方を教えてもらいながら、ハクサイ、タマネギ、サトイモなど、季節ごとに野菜を育てています。サツマイモ堀りや黒豆の収穫などの農業体験には、三原市内はもとより広島県全域から参加があり、毎回盛り上がっているそうです。

「個人的には新たなプロジェクトも考えています。今、注目しているのは電力。坂井原地区には昭和30年代まで水力発電があったそうなので、それを復活させたら面白いかな。地域の人に話を聞いて情報を集めたり、発電について勉強したりしている最中です」と目を輝かせながら答えてくれました。

また、自身の持つITの専門知識や技術を活用し、ITと田舎暮らしを繋げる活動にも力を注いでいます。

「隣の大和町で孟宗竹を使って竹茶を栽培されている方がいて、もっと多くの人にお茶のことを知ってもらえればと、ネットで委託販売を考えています。あとは、自動家庭菜園に取り組みたいですね。田舎に住んでいるからといって、全員が家庭菜園をしているわけじゃないですよね。でも田舎には土地がある。ロボットなどのIT技術を使い、もっと手軽に家庭菜園ができるようになるんじゃないかな。そうすればもっと田舎での生活がより暮らしやすく、豊かになってくると思うんです」

確かに、自動なら初心者や年配の人も家庭菜園を始めやすいかも! IT、農業、地域活性……自身のできることを組み合わせながら、活動の幅を広げている篠崎さん。めざすは“新しい時代の百姓”です。

「百姓と聞くと農業をイメージしがちですが、本来は100個の姓=いろんなことをやる人という意味。終身雇用が崩壊し、副業・兼業をする人が増える現代では、自分の特性を生かし、マルチに働くライフスタイルが主流になっていくのではないでしょうか」



三原をはじめとする田舎地域の将来性


大和小学校でパソコンクラブのお手伝い。田舎に住む子どもたちでも、ITで世界と繋がれる


移住して6年、田舎暮らしは、篠崎さんの想像どおりだったのでしょうか。

「新しい世界でした。農業も暮らしも教科書どおりにはいかないですが、複雑だからこそ今まで見えてなかったものが見えてきました。毎日、発見ばかりで面白い!」

と充実した生活を送っている様子。

「何か新しいことを始めようと思ったときに、都会ではスクラップ&ビルドが必要ですが、田舎の場合はスクラップが必要ありません。さらに人口が少ないので了承を得やすいのも田舎の魅力ですね。各方面へ許可を取ったり、ご機嫌を伺ったりと、煩わしいことをしなくていい。田舎は新しいことを始めるには最適の場所だと思います」

実はIT面や通信面においても、田舎の方が将来的に快適になるのではと予想している篠崎さん。

「インターネット回線は、同時に使う人数が多いほど、混みあって通信速度が遅くなりますよね。安定した速度で通信できるのは人口密度の少ない田舎。これから5G(※)が普及することでさらに速く使いやすくなり、きっと田舎の優位性が高くなるはずです」

田舎=不便はひと昔前の話。リモートワークが普及した今、篠崎さんのような田舎暮らしとITを融合させた、新しいライフスタイルが注目を浴びていきそうです。


※5Gとは、現在日本でも整備が進められている次世代ネットワーク。現在の4Gよりも速く大容量のデータ通信が可能になる


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