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穏やかな島の人と風景が創作の原点。動物や子どもをモチーフに絵本作家の夢を描く


この記事は、2020年6月取材時点での情報です


【幸せづくり】
中本千陽(なかもと ちはる)さん
 

祖父母が暮らした佐木島の民家にアトリエを持ち、地域に根付いて暮らしながら、絵本の創作や絵画教室の活動を続ける中本千陽(なかもと ちはる)さん。幼い時から親しんだ島の自然や人との交流が、ここで創作していきたい思いへつながりました。優しさやホッとする気持ちを伝えてくれる中本さんの絵は、島のあたたかさそのものです。

 

思いを受け入れながら磨いていく創作技術

 JR三原駅から徒歩5分で着く三原港。港から出るフェリーで向かうのは日本一新幹線駅から近い島「佐木島」です。

島の港、鷺港から、柑橘や菜の花の畑、穏やかな瀬戸の海を見ながら車をしばらく走らせたところにある、中本さんの自宅兼アトリエ

昔ながらの日本家屋は、もともとは祖父母が暮らしていた家。幼い頃から、当時は島外に住んでいた中本さんが休みになると頻繁に訪れていた場所でした。

そんな思い出のある家に、現在、生活と創作活動の場を置き、島での日々を送っています。

押入れを改装したデスクに、こだわりの椅子

2階に上がると、中本さんのアトリエ空間が現れます。「ここで絵を描くことにした時、自分にやる気を起こさせるため、お気に入りのアンティークの椅子を買ったんです」と話す中本さん。ここは、落ち着いて自分だけの世界に入ることのできる創作の場所になっています。

子どもたちに防災について伝えたいという依頼から作成した紙芝居

「これは、おととし三原市を襲った豪雨災害からの学びや対策を、子どもたちにわかりやすく伝えたいという要望を受け、手掛けた紙芝居です。これまでにも、小早川隆景を扱った作品など、地域の担当者や企画される方からの依頼を受けて絵を描くことも多かったですね。本来、何度も色を重ねて,あたたかい陽だまりやほの暗い水中などを表現する技法を得意としていましたが,さまざまな依頼を受け要望にあわせた色使いや描き方が求められることで,自分自身の技術を磨くことにつながっています。」

 

絵を描くことは周りとのコミュニケーション、教えることはライフワークに。

小学生の時から絵と話を考えるのが好きで、オリジナルの絵本を自作していたという中本さんは、描いたものを友だちと何回にもわたり交換。絵を描くことはコミュニケーションの手段にもなっていたそうです。
中学生になり進路を考え始めた時、自分の好きなことを活かせる仕事は何かと模索するうち、絵本作家という職業を知り大きな目標に。高校で美術部、京都の美術大学でデッサンや表現技法を学び卒業後、三原市へUターン。

「自分の創作活動と並行して、子どもたちに絵を教えるのも、ライフワークの一つと考えています。現在は三原市文化協会の洋画教室で毎月1回、子どもたちに絵画を教えています。絵だけでなく、佐木島で集めた流木などを使う造形など、子どもたちに島の自然も感じてもらいながら楽しく学んでいます。

こうした子どもたちとの交流は、創作活動にもいい影響を与えてくれたそう

「例えば災害対策の紙芝居などは、作るものが子どもたちにも理解してもらえる必要があり、わかりやすさはもちろん、気持ちにきちんと寄り添ったものへと仕上がらないといけないと思っています」と話す中本さん。

教員免許を持つ彼女は学童保育の指導員も経験しています。子どもたちの気持ちと向き合う機会を持つことが自身の作品にも影響していると話してくれた


ここにはやりたいことを応援してくれるコミュニティがある

「祖父母が暮らしていた佐木島は、私にとってもう一つのふるさとのような存在です。私の創作活動がしたいという思いを島の人たちが受けとめ、協力していただいたことに感謝しています。何かしたい、とアピールできる人なら、きっと私がそうだったように応援してくれますよ。」

移住を考えた際に、初めは三原市の定住窓口にも相談しました。中本さんの場合、祖父母の家があったため、利用はしませんでしたが、住宅や自動車を紹介あっせんする支援などもありサポート体制も整っているよう。また、島ではまだ数少ない若い人達が積極的に集まり、お互い必要な人脈づくりや情報交換を行い、役立つ情報が多く得られたのも、中本さんの移住と創作活動を後押ししたそうです。

そして何より、顔を見れば「元気?」と声をかけてもらったり、育てた野菜などを分けてもらったりと、島の人たちとのあたたかい交流が、中本さんの今の暮らしの支えになっているとか。人と人とのつながりを感じられる日常が島にはあります。

「ここでの暮らしは自分に合っています。創作に疲れたら海辺を散歩したりして気分転換をしています。農業法人の仕事も私の中では大切な切り替えの時間。収入を得るとともに体を動かすことでリフレッシュにもなり、創作活動にも集中できます。」

中本さんにとってこの佐木島は自慢の場所だ

「島を訪れた人はまた来たいと言ってくれます。中には、ゆったりと過ごせるこの島を,沖縄の離島に例える人もいたりします。」と笑顔で語ります。

中本さんにこれからの夢について尋ねてみました。

「夢は絵本作家として自分の作品を出版すること。読んだ人があたたかい気持ちになるような作品を多くの人に届けていきたいです。」

穏やかなこの島の人や風景が、中本さんの創作の原点。これからもこの島で、自分らしく創作活動を続けていきたいと、今日も絵筆を握ります。