地域の人が集う憩いの場所と、皆に愛される味を守りたい
この記事は、2019年3月取材時点での情報です
【食づくり】
すなみ港売店
長岡彩(ながおか あや)さん
須波港待合所の売店に、今や地元の名物とも言えるたこ焼きがあります。それを求めて立ち寄る人で待合所はにぎわいます。
しかし、その売店は店主さんが体調を崩したため閉店の危機に見舞われました。
そんな時、地域に愛される味を守ろうと立ち上がったのは、まだ若い1人の女性でした。
にぎわいを生んだ須波のたこ焼き
三原と尾道の生口島とをつなぐフェリーや、うさぎ島として観光客に人気の大久野島へ向かう高速船が発着する須波港。
その待合所内に、にぎわいを見せる一角があります。
飲み物やお菓子、うどんやそばを販売する、すなみ港売店では「一番の人気はたこ焼きなんです」と店主の長岡彩さんが教えてくれました。
「売店ができたのは約30年前。その頃のメニューにはたこ焼きはなかったんですが、名物になるようなものを、ということで先代の店主さんが始められたんです」。
フェリー待ちのお客さんだけでなく、わざわざたこ焼きを買うために港に立ち寄る人もいるのだとか。
「街に出る用事があったけぇ買いに来たわって、顔を出してくれる方も多いんです。そういう方がいてくれるのが嬉しいですね」。
人気のたこ焼きは1日に70パック、週末の多い日には200パックが売れるそうです。
守られた憩いの場、受け継がれた名物の味
三原で生まれ育った長岡さんは高校卒業後、すなみ港売店で働き始めました。
「海の近くで育ったこともあり、海が見えるところで働きたいと思ったんです」。
長岡さんが店の経営を引き継いだのは2018年の1月のこと。
「先代の店主さんが体調を崩して働けなくなった時、地域の憩いの場所を無くしたくないので後を継いでもらえないかとお願いされました」。
自分に店主が務まるのか悩んだ長岡さんは、自営業だった祖母や、もともとお店の常連客だったご主人にも相談したそうです。
「自分がやりたいならやれ、という主人の言葉に背中を押されました。何より、地域の皆さんに愛される味や、憩いの場所を無くしたくないという思いに駆られたんです」。
「タコは地元のものです。焼く時に程よく火が通るよう、下茹でには気を遣います。茹で方が足りないと焼いた時にちゃんと火が通らず、また逆に茹ですぎると固くなってしまうんです。目安で時間も計りますが、手で触ってみて茹で加減を見極めます」。
よりたくさんの人に訪れてもらいたいから、、、
「中までしっかり火が通り、香ばしいのもウチのたこ焼きの特徴なんです」。
もともと料理好きだったという長岡さん。伝統の味を守るだけでなく、新商品の展開にも乗り出しています。
「アイスとプリンを特徴的な丸いワッフル生地で包んだバブルワッフルも好評をいただいています」。
さらににぎわいを生むために、若者向けのメニューも開発中だといいます。
「お店の従業員さんや常連のお客さんにも試食してもらって、みんなで作り上げています。どんな商品なのかは、まだ秘密なんですけどね」。
明るい表情の中に、新メニューへの自信と期待がにじんでいます。
「それから食べ物だけでなく、地域の人たちが造った手芸品も売店に置きたいと思っているんです。それがきっかけで、さらにたくさんの人が集まって、ここが憩いと交流の場になればいいですね」と、にこやかに語る長岡さん。
地元で愛される味と集いの場所を守る、若い店主さんの挑戦はこれからも続きます。